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仕事と補完性

某所で没ったので、こちらで掲載することにしました。この補完性というテーマを、私は大事なテーマにしています。

 

 

シンプルな定義について

 

 仮に、二つの仕事A、Bがあったとします。この時、ABの仕事に関連性が全くなければ、ABの二つの物事に取り組むことには、その二つを実施する「だけ」の意味しかありません。

  

 しかし、ABに関連性があれば、Aに取り組むこと、Bに取り組むことはそれぞれお互いに影響を及ぼし合います。仮に、働く人の労働時間が1としたときに、二つの物事に0.5ずつ時間を投入すると、1以上の結果が出ることになります。この状況を、補完性が働く、と言います。シナジーと言われることもあります。

 

どうして補完性に着目するのか

 

 さて、この補完性についての簡単な定義を紹介しました。補完性は重要なキーワードであると私は思っています。その理由を今から述べましょう。

 

①一つのことをするよりも二つのことをした方がよい(リスクヘッジ的な意味で)

 

 技術が進歩すると、現時点で価値があると考えられていることに価値がなくなってしまうことがあります。たとえば、綺麗な字を書いたり、定規を使って綺麗な図を書いて、報告書を作っていた時代がありました。その時には、字がきれいであることや丁寧な手作業ができることが、その人が仕事ができること、と同じ意味だったのではないかと思います。ですが、今日では、同じ作業は、おそらくパソコンを使って行われます。現在では資料を作るときには、WordPowerPointを使って、作成されることでしょう。

 

 つまり、綺麗な字を書くこと、定規を使った丁寧な作業ができることの価値は、パソコンを用いた仕事がメインになったことで、ビジネス面での価値を下げたことになります。

 

 ある一つのことしかできない人は、技術の進歩やツールの登場によって、急速に価値を落とします。それ以外にも、市場が変化することによって、ある分野の求人が激減する可能性もあります。その時に、ただ一つのことにしか力を発揮できないよりも、別のことで力を発揮できる方が人材としての価値を下げずに済みます。

 

 つまり、スキル面で、専門性を図ることは重要ですが、ある一つの分野に限定した形では変化に弱くなります。一つのことができるよりも、二つのことができる方が、環境が変化した時には有利になるのです。

 

②新しいことは領域横断的に生まれる

 

 「イノベーション」ということばは、たいへん魅力的に響きます。時代の性という奴でしょうか。誰もが新しいことを求めています。しかし、新しいことをしろ、と言われても、なかなかできないのが悲しいところです。そもそも、何か他人が思いつかないようなことをしてみようと思ったところで、それが少し工夫した程度でできるなら、誰だってそのことを思いつくはずです。

 

 アイデアがどこからやってくるのか、ということについては、まだよくわかっていないようです。しかし、一つ言えるのは、新しいことができる人は複数の分野にまたがった知識やネットワークを活かしているということです。たとえば、私の知人に、大学・大学院時代の専攻が農業分野だった人がいます。修士課程まで進んだ後、閉そく感を感じて、博士課程まで進まず、経営コンサルティングの会社に入社しました。そこで、仕事の仕方を学んだ後、農業と経営ノウハウを活かして、農業のベンチャーを設立しました。

 

 農業を学ぶことと、経営ノウハウを学ぶことがお互いに無関連であれば、その人は農業に関するノウハウと経営に関するノウハウを二つ持っていただけです。しかし、その二つを結び付けることによって、農業のベンチャーを創出しました。つまり、一つ一つに真剣に取り組むことから、第三の仕事を創り出したのです。

 

 農業にしか関心を持たない人にはできない仕事ですし、経営コンサルティングしか経験していない人にもできない仕事です。しかし、二つの領域にまたがって仕事に取り組んだことで、その間に別の新領域が創り出されたのです。

 

③ある一つで学んだことが他で生きる

 

 文系・理系というカテゴライズは不毛です。ここでは、そんな話は措いておいて、高校生の時の科目について振り返ってみましょう。数学が良くできるタイプの子は、物理も良くできます。というよりも、数学の成績がボロボロなのに、物理だけいい点が取れるというタイプの子は少ないんじゃないかと思います。

 

 なぜなら、数学に関する知識は、物理を勉強するのに必要な基礎知識と重複しています。数学に注いだ勉強時間の一定割合は、物理に対しても同時に投資されているということです。つまり、ある分野に熱心に取り組むことは、関連する領域を学ぶコストを(大きく)下げます。

 

 別に勉強の中だけではありません。算数や数学がよくできる人は、会社員になって、エクセルを使った表計算の事務作業をしたときに、算数や数学ができない人よりも正確で丁寧な仕事ができることが多いと思われます。というのも、エクセルは数式の集まりだからです。

 

 社会人に対するパソコンの指導、大学生に対するSPIの指導、高校生に対する大学受験の指導、中学生に対する高校受験の指導……私は、これらすべてに携わっていますが、小学生の時に四則演算(特に分数の計算)で躓いている人は、このすべての側面で、不利になる傾向があるように思われます。

 

 基礎学力が「基礎」と呼ばれるゆえんでしょう。そして、おそらく、この基礎となる部分は、世の中一般で思われているよりも広いのではないかと私は考えています。たとえば、会社に入って、色々なところで力を発揮できる人もいれば、どこに行ってもダメ、という人もいます。センスの問題にしてしまう人もいますが、おそらく違うと思います。様々な仕事で力を発揮できる人は、特別専門性がなくても、段取りをすることがうまかったり、わからないことを調べて、キャッチアップする力に優れています。道筋を立てて物事を考える力や、下調べ・調査をする力は様々な業務の基礎となっています。

 

 従って、一つのことで力を発揮している人は、その一つのことをなすために学んだ知識を他で活用することができるため、二つ目の仕事にかなり低コストで取り組めることができるわけです。

 

スキル間の補完性

 

 個人が、意識的に複数のことに取り組むことで、①環境変化のリスクを小さくすることができる ②新しいことができる ③共通の基礎能力を活かして、低コストで取り組める、という利点があります。

 

 いくつかの物事に取り組むことで、補完性を発揮して、一つのことだけに取り組んでいるよりも高い成果が得られる、ということです。

 

 ここで、その二つに全く関係がなかったら、どうしよう、と考える人もいるかもしれません。補完性が働かなかったとしたら、すごく非効率的なことをしてしまうのではないか、と心配する人もいるかもしれません。

 

 私は、あまり心配はいらないのではないか、と考えています。というのも、関連性は既存のものではなく、新たに発見されるものでもあるからです。私たちは、二つのことに熱心に取り組んでいるときも、一つの脳味噌しか利用できません。たった一つの脳味噌で、複数のことを考えれば(そして、それに真剣に取り組もうとすればするほど)できるだけ効率的にリソースを活用しようとするはずなので、関連性を無理やりに見つけようとするのではないかと思います。

 

 もちろん、それは、見当外れのものであるかもしれません。しかし、私が何人も、複数の領域で結果を出している人を見ている分には、有益な結合を見出した人は多いようです。

 

※注意点

  

 事前に、何と何が関連しているかということを意識する必要はあまりありませんが、二つの物事に取り組むときにはプロフェッショナルな意識を持って取り組むことが欠かせません。つまり、ちゃんと考えて、良い成果を出すために努力をして、芳しい結果が出なかったときにはその理由を考える必要があるのです。一つのことをきっちりと物にするのと同じ質の努力は出し惜しみしてはなりません。