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『思考停止ワード44』(博報堂ブランドデザイン著、アスキー 新書)その3

 同書の「成長」ということばをとりあげた節は、企業が成長に縛られるあまりに無理をして本来の理念や目的を忘れているのではないか、ということを指摘して、成長ではなく、「生長」だ、と新しいコンセプト(持続可能性を表しているそうです)を提示して終わります。

 

 頭が痛くなる展開です。もう少し分析的に書いた方がいいと思われます。成長、ということばには様々な使われ方があります。企業、個人においても使われます。企業にとって、成長というキーワードは、企業レベルでは拡大という意味で使われます。大概は売上のことを意味しますね。

 

 個人にとっての成長は……これはかなり意味不明な概念です。とりあえず、これについては論じないでおきます。

 

 同書に書かれている通り、会社が大きくなる時には様々な組織上の問題が発生します。私が成長途上の会社でよく見かけたのは、規模の増大によって管理が追い付かない、体制や制度のフォローが追い付かないことによって、良心的な働き手に大きな負担がかかることです。これは概ね正しいと思います。

 

 ただ、同書が「本来の理念や目的云々」と書いている所は完全に的外れだと思っています。なぜかと言うと、社会に影響を与えようという考えがあり、会社を何とか存続させようと思うから、会社を拡大させるわけです。何としてでも生き残りたい、経営者として力を発揮したいと思うから、拡大できるチャンスはすべてフル活用したいと考えるわけです。成長という曖昧なコンセプトで思考停止しているから、というのはあまりにも経営者をバカにしすぎです。

 

 ただ、必死なあまり、規模の拡大にこだわると、売上が伸びても利益が思うように伸びない、という事象も起こります。いけいけどんどんの姿勢とコストコントロールの姿勢は相反することがあります。また、内部人件費について考慮していないと、人使いが荒くなって、本当に貴重なリソースを摩耗させているかもしれません。

 

 従って、この企業の規模の拡大には、先行する売上や規模の拡大と並行して、考えなければいけないことが多い、それだけです。そのときに、十分に体制を整備しないままでいるのは、大きくなりつつある企業には大きい企業としてのマネジメントのノウハウがないことが多く、また、それをじっくりと構築する手間を惜しむためです。おそらくは。

 

 業績を追いかけることは重要です。しかし、同時に考えなければいけないことがたくさんあるわけです。

 

 ただ、考えられるならそうしているし、できるならそうしている、というのが実情ではないでしょうか。思考停止しているわけではありません。企業としての本来の姿を見直す、などといった感傷的なことばはおそらく必要ありません。もっと素直に費用対便益のフレームワークで考えるべきだと言うべきです。その場合、規模を追い求めた企業がどこでそのつけを払うことになるか、という少し長期的な展望と、そのツケを貨幣価値に算出してみることで、振り返りのきっかけになるはずです。

 

 本当に切り口は悪くない同書ですが、この成長の項目にしても「成長ではなく、生長だ」とできの悪いポエムでオチを付ける感じが読者をバカにしているような感じがします。思考停止が問題なのだとしたら、処方箋は、ちゃんと考えるということにあるはずです。なぜ、こういうどうしようもない解決策の提案になるのか、ほとんど理解ができません。

 

 

 個人の成長、というテーマについては別の形で書こうと考えていますが、同書のキーワードについては、また特集しようと考えています。