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『思考停止ワード44』(博報堂ブランドデザイン著、アスキー 新書)その5

 なかなか良い切り口から、出がらしのお茶のような薄い考察でオチを付ける『思考停止ワード44』ですが、「現実的」というキーワードでもやはり同様の光景が見られます。

 

 その意見は現実的ではないね、という考え方は斬新なアイデアや発想を壊すかもしれない。今日の現実は明日の現実ではないのだから。

 

 というような話です。キーワードを選ぶセンスは決して悪くはないと思うのですが、相変わらず、新聞のコラムのような浅い掘り下げ方が素晴らしいと思います。

 

 まず、現実は常に変化している、ということが直ちに斬新なアイデアに飛びつくことを意味するわけではありません。Appleのような成功例(本書でも挙げられている)の一方で、有象無象の斬新なアイデアが失敗してきたでしょう。未来のことなんて誰も見通せないわけです。

 

 では、現実的ではないね、という意見はまっとうかと言うと、そうではありません。ある案が現実に実行可能かどうかということはかなり難しい問題です。何にリアリティを感じるかどうかというのは個人差があります。ある案が現実に実行できるか、意味があるか、という判断はちゃんと言葉を尽くして行うべきです。現実的ではない、という意見に対して、それでは斬新なアイデアが切り捨てられる、と切り返すのは陳腐であり、それ自体が思考停止です。

 

 斬新なアイデアを提出する側は、どうすればそのアイデアが受け入れられるかということを工夫する必要があるでしょうし、直観以外の努力をせずに案を検討できない側ももっと頭を使えということが実際のところです。

 

 まず、感覚の差を埋めるためには、対話が必要です。提案に対して有効な判断ができないからと言って「現実的ではない」と切り返すのは、思考停止というよりも思考力がない、と言うべきです。ただ、斬新なアイデアがあったとして、それがいかに有望に見えたとしても、採択するかどうかは賭けになります。思考力があってさえ、何が良くて、何が良くないかという判断は困難を極めます。なぜなら、未来のことは不確定だからです。だからこそ、プロトタイピングが非常に重要です。

 

 アイデアを提案するためには、どの程度の予算でそのアイデアをテストすることができるか、ということを考えなければなりません。「現実的ではないね」と返答することにはもちろん芸がありませんが、「斬新だ、素晴らしい」と返答することにも芸はありません。どうしたら、その斬新なアイデアをテストすることができるかということを考えて、初めて、アイデアを具体化する体制が整います。

 

 同書は、良い切り口を提示しています。思考停止キーワードとして、ビジネスマンが良く使うことばで、あまり頭を使っていないと思われるものを抽出しています。きっちりと物事を考えなければいけないことを、短い紋切り型で終わらせてしまうというのは確かに大きな問題なのです。

 

 

 しかし、それはキーワードに別のキーワードや少し物珍しいアイデアをぶつけることで解決できる問題ではありません。レッテルを張って終わらせる前に、考えるべきことを筋道を立ててじっくりと考えることがビジネスにおけるコミュニケーションを改善するということなのです。