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書評『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください』

 以前、このブログで、受験勉強のことについて紹介した、脱社畜ブログの人(日野瑛太郎)の本

Amazon.co.jp: あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。: 日野 瑛太郎: 本

を本屋さんで購入しました。

 

 まず、この本のポイントは、本のタイトルにもなっている主張が正当な権利ではなく、挑発と受け取られる日本の企業文化に対して、です。

 

 これについては、賛成。

 

 ただし、amazonのブックレビューでも触れられていますが、必ずしも仕事の「やりがい」を皆が求めているわけではなく、一般化しすぎです。どちらかと言うと、日本の会社全体と言うよりも、鼻息の荒いブラック企業の言い分に対する冷水ではないかと思います。

 

 後、私は彼のblogを最近まで知らなかったし、愛読していなかったので、当然ながら、内容の重複は気になりませんでした。しかし、本の中身がどうこうと言うよりは、多くのレビュアーからblogの繰り返しと批判されている点については、芸風増やすべき、ということになるでしょう。

 

 後は、日本的雇用の話など、単純化しすぎじゃないの? とか、労働時間の話にしても単純化しすぎじゃないの? とか色々あります。それでもなお、著者のタイトルは、社会的貢献のために従業員は犠牲になれよ、と平気で言う類の経営者に対しては、十分なカウンターパンチになるでしょう。

 

 後、amazonのレビューには、「対案がない」とかいうアホな意見を出している人もいましたが、彼は「法律を守れ」「法律を守れないなら、そんな会社潰れろ」と会社のあり方について意見しているので、対案もくそもないでしょう。

 

 ただ、著者やそのほかの人に言いたいことがあるのですが、社畜辞めようぜ、自由な生き方しようぜ、と行ったときに、会社を離れて稼げる人が一体どれくらいいるのかについては、私は結構疑ってます。

 

 たとえば、新卒採用がさも若者いじめであるかのように書かれていますが、若年失業率は日本以外の国でも問題になっています。特に有用なスキルを持っていなくても、とりあえず将来にかけて新卒の学生を採用してくれる、というのはすごく甘い制度です。むしろ、一度レールにはみ出た人間の苦労を他国の人間は味わっているのではないかと思えたりします。

 

 それから、仕事のレベルを評価するのは難しいことです。日野さんは是非とも実験してほしいのですが、ちょっとクラウドソーシングで仕事を依頼してみてください。発注すればわかることですが、同じ金額を払っても、きっちり仕事をしてくる人間と本当にクソみたいな仕事をしてくる人間がおり、全社を優遇して後者を冷遇するまともな仕組みが機能していません。ちゃんと仕事ができるかどうかは、職務経歴を見てさえ、判断するのが難しいのです。

 

 これを機能させるなら、その人がどれくらい仕事ができるかということを評判としてひもづければよいことになります。さらに、そのデータベースが一元化されていれば、同一労働同一賃金も夢ではない、いい仕事ができる人に対価を、という仕組みができるかもしれません。ただし、これは、「能力のある人と能力のない人を厳密に仕分ける」システムになります。力がなく失敗続きの人は、悪い評判が平均的に続くでしょう。そんな人でも、会社にしがみついていれば、安定した給料が望めるかもしれませんが、会社の枠を外されれば、生活水準を大きく落とさなければならないかもしれません。

 

 私はそれでもよいです。なぜなら、会社組織から解き放たれてしまった人間だから。

 

 しかし、多くの人はそうではない。ちょっとフリーで稼いでみれば、わかることですが、会社員として普通に働く程度では、まったくお金になりません。会社員の手にする給料と同額をフリーランスで稼ぐのは、非常にしんどいことです。ましてや、企業は正社員に対して、給与よりもはるかに多い額を支払っています。

 

 それだけ個人として稼げる人が何人いるんですかね?

 

 著者の主張のコアの部分。当たり前の権利を当たり前に主張する、ということは私自身も大事にしたいですし、重要なことだと思います。ただし、それを実現するのは極めて難しく、同書にはそのヒントさえないというのが事実です。